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[1704] [百物語] 光<ひかる> - 2014/03/30(日) 10:04 - |
[桂男]:月ぃ眺めとったらあきまへんでと帳屋の林蔵は言った。何でやと問う。其の問い懸けの抑揚がどうもにも上方風でなく、急に拵えた様な不自然な尋ね様に成ってしまったから、剛右衛門は何だか気恥かしく成った。上方でも暮しも今年で二十五年に成る。上方訛りは身に染みて居る。だから取立ててそうしようと思わなくとも、極自然に口を突いて出る。独り言等皆上方風ふうである。其れなのに意識した途端、嘘臭く成る。真似でもして居る様に成る。剛右衛門は其れが嫌だ。何故月を見ていけませんかなと、再度問うた。照れ隠しに江戸の訛りに近付け様としてみたのだが、却って上方者が無理に江戸弁を使って居る様な具合に成った。妙な物である。持ってかれ謂いまっせ、と林蔵は言った。「持ってかれるて、何を」「さあ何でっしゃろかな」、林蔵は困った様に笑う。佳い男である。容姿の事ではない。勿論、見た眼もさっぱりと垢抜けて居るし、顔付きも整って居る。切れ長の吊眼は何処か高貴な様子だし、鼻筋もすっと通って居て、薄い唇は男の癖に朱く、色白の顔に妙に映えて居る。噂では言寄って来る女は相当に多いらしい。其れなのに、此の優男はどうにも女に吊れないと言う。羽振りが悪い訳でも無く男振りも好いのに女気を嫌う、身持ちが堅いからと言って所帯を持って居る訳でもない。嫁を娶る気配もない。だから中には陰間ではないかと悪口を謂う者も居るが、其れがやっかみと言う物である。勿論、剛右衛門にも男色の気は無い。剛右エ衛門は林蔵の人を買って居る。否、正直に言うなら其の商売の手腕を買って居る。林蔵は天王寺で帳屋を営む男である。帳屋と言うのは |